建築学会とプレパックドコンクリート

博多から西鉄電車にゆられること約40分、二日市駅に入った車両はスイッチバックして西鉄太宰府線へ入ります。

「大宰府客館跡」と書かれた広場を横目に、ここから2駅で太宰府駅です。

 

2025年9月。建築学会大会が九州大学で開催されました。

小職も参加させてもらっている共同研究チームの発表があり、大変緊張しながら無事発表を終えました。

 

研究チームに福岡の歴史に大変詳しい方がおられ、太宰府天満宮や市街地の史跡について教えて頂きました。

元々、太宰府天満宮のとある歌碑を見たかったので大変話が盛り上がり、発表翌日の朝から天満宮・大宰府跡を観光することとしました。

 

 

さて、西鉄大宰府駅に到着し、お店で賑わう参道を進みます。

目的の歌碑はその喧噪の中にひっそりと佇んでいました。

「住みなれし ふるき都の恋しさは 神も昔に おもひしるらん     平重衡」

 

治承・寿永の乱、即ち源平の争乱で平家一門は都落ちし、一旦大宰府に入り反攻態勢を整えます。

※しかし豊後(今の大分県)の緒方氏に裏切られ、大宰府も追われますが

官庁組織としての大宰府は平安末期には形骸化していたといいますから、この時には廃墟に近い状態だったと推測できます。

その時に平重衡(たいらのしげひら 清盛の五男)が詠んだのが前述の歌です。

重衡は翌年の一の谷の合戦で捕虜となり、自身が焼き討ちした南都へ引き渡されます。その道中、「ふるき都」で共に過ごした妻が駆け付けて涙ながらの再会を遂げますが、刑場の露と消えます。そして妻はうち捨てられた骸を引き取り、生涯その菩提を弔ったと伝わります。

こういった後日譚も併せて思うと、大変感傷に浸ってしまう歌です。

 

 

さて、話を仕事に戻しますと今回の発表のテーマの中の一つは「プレパックドコンクリート」でした。

本工法は本四連絡橋の建設(児島~坂出ルート:1988年開通)では大々的に用いられた工法です。

ケーソン内に粗骨材を充填しておき、後から特殊モルタルをその間隙に注入してコンクリートを形成する工法で、粗骨材との一体性などの品質確保に課題があるものの、締固めを行わないため施工自体は容易です。

 

しかし、水中不分離コンクリートの普及で本工法の適用事例は少なくなり、ついに2017年版コンクリート標準仕様書では、本工法の記述が姿を消しました。

※昭和33年度版コンクリート標準示方書で初出、約60年で示方書から姿を消したことになります

 

その工法をなぜ研究対象に?という過程は割愛しますが、プレパックドコンクリートについて私なりにまとめました。

 

  • 適用対象

土木学会のデジタルアーカイブスで過去の文献を見ることが出来るが、昭和40年代の文献を見る限り水中施工を想定している。

戦後に海外から導入された時点で、水中施工が主たる目的の工法だったと思われる。

ただし、2012年コンクリート標準示方書では

 

「(中略)各種の充填コンクリート、補修・補強コンクリート、重量骨材を用いた放射線の遮へいコンクリート、無筋の海洋コンクリート等に使用されている」

 

とあり、水中施工に限定されてはいないようだ。

 

  • 概要

「特定の粒度をもつ粗骨材を型枠に詰め、その空隙に特殊なモルタルを注入して造るコンクリートのこと」(2012年コンクリート標準示方書)

 

他、標準示方書の内容を下記にまとめた。

項目 注入モルタルの概要(2012年コンクリート標準示方書より)
一般 高強度
モルタルスペック 圧縮強度 記載なし σ91=40~60N/mm2
P漏斗流下時間 16~20秒 25~50秒
ブリーディング率 3%以下 1%以下
膨張率 5~10% 2~5%
モルタル原料 結合材 普通ポルトランドセメント+フライアッシュ、またはフライアッシュセメント
細骨材 2.5mmアンダー、FM=1.4~2.2
混和剤 減水剤、発泡剤(アルミ粉)、増粘剤、遅延剤等を適当量混合した専用混和剤を推奨
粗骨材 最小寸法=15mm以上

最大寸法=部材最小寸法の1/4以下、かつ鉄筋のあきの1/2以下

 

デジタルアーカイブスをさかのぼる限り、昭和49年版コンクリート標準示方書からほぼ変わっていない。

本工法の適用例が少なく、ほとんど改訂されないまま50年・・・という印象。

 

 

  • 長所と短所

この1年程度ではあるが、自分自身でプレパックドコンクリートを触った上で長所・短所をまとめる。

 

【長所】

施工の簡易性

→モルタルの練り混ぜはハンドミキサーやグラウトミキサーを使用するため、モルタルの施工工程は容易。

また、特殊条件(僻地、山中など)でのコンクリート打設も容易になると考えられる。

 

 

 

【課題】

  • 粗骨材の品質確保(過小粒、含水状態など)

→粗骨材の品質によってモルタルの充填性が大きく左右される。

吸水率の大きいもの、過小粒の多い粗骨材はモルタルの充填性を相当阻害する。

 

  • 美観

→型枠を脱型する場合、骨材の型枠に接していた部分が見えるため、美観が課題となる

 

  • 凍結融解抵抗性

→過去の文献でも凍結融解抵抗性を課題としている。

おそらくだが、粗骨材が最密充填状態のためモルタル層が薄く、凍結融解のストレスに耐えられない。

または粗骨材とモルタルの界面に水が浸入しやすく弱点になると思われる。

 

  • 工程の多さ

→型枠のシール(モルタルが漏れやすいため)、粗骨材充填、モルタルの充填と在来のコンクリート工より

工程数が多い。

 

 

 

以上、備忘録として私見をまとめました。

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